逆にいえば、時価で取引される流通市場がなければ、投資家の方も投資に2の足を踏むということです。
これは債券投資に限らず、株式も不動産も、すべての資産に共通していえることです。
そして2つ目が、キャピタルゲイン非課税というアメとムチ策で、公的な性格の投資を民間に促している点です。
スラム街を再開発することは国民の利益になるわけですから、売却益を非課税にするというアメのコンセンサスは得やすくなります。
アメリカは現在、老朽化したオフィスビルを住居に転換すれば固定資産税が軽減される特例措置を多くの州が取り始めていますが、これもアメとムチの一種でしょう。
さらに3つ目には、投資家の自己責任原則にふれることも忘れてはいない点です。
発行後の債券のバリューは、あくまで市場原理にしたがって時価で決定されることを投資家に対して念押ししています。
不動産投資市場においても、アメリカではあくまで時価を重視する市場原理が貫かれています。
不動産投資信託(REIT)はまさにその代表です。
現在、アメリカには200近いREITが証券取引所に上場されていますが、個別のREIT株については、証券会社の店頭に行けばすべてその時価を知ることができます。
各投資家は、様々な投資情報のなかから自分が投資したい不動産の種類や立地条件、それに何といっても経済のファンダメンタルズを判断したうえで、株式投資と同じ感覚で不動産投資を行うことができます。
図表3,4は、REITと他の金融商品のパフォーマンスを比較したものです。
この20年間でみると、REITは株式投資とほぼ同程度の投資収益率を確保し、国債や不動産直接投資よりもはるかに高いリターンを生んでいることがわかります。
また、この5年間ではREITの総合利回りは株式(S&P500)に比べてやや劣っているものの、インカム(配当益)部分だけをみればいかにREITが高配当かがわかります。
アメリカでは、常にこうして金融商品と不動産投資商品のあらゆるパフォーマンスが比較され、ライバル関係のなかでお互いに切嵯琢磨を繰り返しているのです。
そしてアメリカには、時価総額14兆円といわれるREITの他にも巨大な証券化マーケットが豊富にそろっています。
商業不動産モーゲージ証券(CMBS)の発行額は、昨年1年間だけで400億ドル(5兆2000億円)を超え、総残高1000億ドル(13兆円)の市場規模にまで発展しました。
低格付けの債券ばかりを扱うジャンク債市場も5000億ドル(65兆円)規模にまで急拡大しました。
このようにアメリカの投資スタンダードは、すべての資産を時価評価し、時価の流通市場を整備し、常に時価評価の洗い替えを行い、即分配する完全時価取引型といえます。
常に時価を採用するがために、時として価格の行き過ぎが生じるのもアメリカのマーケットの特徴です。
日本には、グローバルスタンダードといえば即アメリカのスタンダードだと認識している人が多くいますが、果たしてアメリカ流の時価主義が日本の風土に適合するのかどうかは疑問です。
いずれにしても、日本が本格的な不動産投資市場をつくろうとするときに避けては通れないのが、マーケットを何の信用で支えるべきなのかという根本的な議論なのです。
アメリカ流の時価取引型不動産投資だけが世界のスタンダードではありません。
不動産を時価評価して、キャピタルゲインをどこまでも追求していく時価型の不動産投資には、市場原理に基づいた時価相場が不可欠です。
しかし、アメリカの例を見ればわかるように、公正な時価取引の信用で市場を常に安定させることは不可能です。
市場は必ずどこかでオーバーシュートするものです。
そこで、アメリカの時価型スタンダードとはまったく違うスタンダードを取り入れている、ドイツの簿価取引型不動産投資をスタディーしてみましょう。
ドイツでは、不動産に限らず株式の世界でも時価発行増資という考え方がありません。
すべて額面による発行が基本です。
そこでは、不動産投資といえども半ば元本保証された定期預金に預けるような感覚で、多くの個人投資家が不動産ファンドに投資をしています。
そして、ドイツ人投資家の感覚では、投資のパフォーマンスとは預けていた元本に金利分がプラスされて戻ってくることを意味します。
つまり、投資元本に対するキャピタルゲインを初めから期待することなく、一方で元本が減ることも想定していない非常に保守的な投資感覚なのです。
それでは、事実上の元本保証に近いドイツの投資市場は、いったい何の信用で支えられているのでしょうか。
ドイツ特有の簿価主義は、実は銀行の信用力によって支えられているのです。
ドイツの投資市場は、ユニバーサルバンキングというョ−ロッパ独特の銀行制度と、3大銀行という強固な金融基盤のうえに成り立っています。
銀行の信用力は金融不安に揺れるいまの日本とは比べものにならないほど高く、また銀行が強いからこそどんなに不況になっても金融不安が起こることはないのです。
ドイツの失業率が2%を超えても恐慌にならない理由はここにあります。
ドイツの不動産投資市場も、基本的にはこうした銀行の信用力が支えているといえます。
ドイツの代表的な不動産投資商品の1つに、オープン・エンド・ファンドがあります。
ドイツではアメリカと違って、不動産投資の媒体としてREITのような株式会社形態をとらないので、不動産投資は通常ファンドの形態をとることになります。
このオープン・エンド・ファンドは、個人向けの不動産小口商品としては最もポピュラーな存在で歴史も古く、基本的な仕組みはREITと同じです。
投資家は資本投資会社から持分証券を購入して収益の分配を受けますが、その収益はパッシブ所得として認識されますから、資本投資会社の段階で2重課税されることはありません。
この点はREITと同じです。
REITとの大きな違いは、その流通市場と換金方法です。
ドイツには、アメリカのような証券の流通市場はありませんので、時価でいつでも換金できるほどの流通性が備わっているとはいえません。
しかし、流通市場に代わって証券の発行会社、および証券の寄託銀行がいつでも買い取ってくれるシステムになっています。
この証券の発行会社および寄託銀行は、たいがいが前述した大銀行の関連会社で信用も厚く、これらが定期的に買い取り基準価格を発表することで流通機能の代わりを果たしている格好です。
もちろん、不動産投資とはいえファンドですから、管轄はドイツの銀行監督局になりますし、持分証券発行時には、REITが上場するときに匹敵するぐらい厳しい監査を受けることになります。
ドイツ銀行法の規制に加え、投資の最低単位数、規模、借入金、情報開示および報告義務について厳格な規制が盛り込まれています。
このようにドイツの不動産投資市場は、銀行の信用で成り立っている側面が強いのです。
したがって、銀行の信用さえ保つことができれば市場に対する信頼が揺らぐことはありません。
そのかわり投資家が得られる収益は、銀行預金の感覚に近い元本プラス金利しかありません。
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